DXへの取り組みについて

2021年8月30日

2020年春頃より、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によるパンデミックが発生したことにより、ビジネスモデルの急激な変容が求められる状況となりました。多くの企業で、感染拡大防止対策の一環として、リモートワークの導入、web会議の利用、紙書類や伝票類を扱う業務のデジタル化、電子承認の導入等が進み、企業のデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)(※1)の取り組みが一気に加速してきています。企業のデジタル化にあわせ、監査業界においても監査業務の変革が不可欠であることは言うまでもありません。

一方、監査業界では、不適切会計の事件が後を絶たず、不正手口の高度化、デジタル化の加速、景気の変動による不正リスクの高まりなどにより、監査品質に厳しい目が向けられ、会計不正を発見する能力の向上が求められています。監査品質の強化や監査人の責任回避のため、監査理論の精緻化、膨大で網羅的な監査手続の実施、大量の文書作成が求められるようになりました。こうした厳しい監査環境の中で、従前の手法のままでは、スタッフは膨大な作業に追われ、踏み込んだ質疑、現場感覚、深い考察、疑問点の究明など、本質的な深度ある監査に割く時間が限られ、かえって品質低下を招きかねない状況となっています。

私たちHLB Meisei有限責任監査法人は、DXへの取り組みのために社内体制を変革し、Webコミュニケーションツールの利用、データのクラウド化、調書の電子化、データ分析の自動化、データ監査ツールの活用、RPAツールの研究、DX人材の育成を進めています。

Ⅰ.Webコミュニケーションツールの利用
2020年4月よりリモート監査体制の整備の一環として、WebコミュニケーションツールであるMicrosoft Teamsの導入を行いました。 これにより、web会議やチャットによる法人内外との円滑なコミュニケーションの活性化、各監査チーム内でのファイルや情報の一元管理による作業効率の向上、そしてPC画面共有機能による閲覧・編集を行うことでペーパーレス化を図っております。

Ⅱ.データのクラウド化
企業の重要な財務データを取り扱う監査法人として、当法人は、従来からセキュリティの強化に積極的に取り組んでまいりました。しかしながら、近年のウイルスやサイバー攻撃の激化や高度化に対応するためには、社内ファイルサーバーによるセキュリティ対策には限界があると判断し、2020年4月より社内データの保管と共有をMicrosoft Teamsと連携させたクラウドストレージサービスに全面的に移行しました。
データのクラウド化により、セキュリティの強化に加えて、時間や場所の制限を受けることなくスタッフがデータにアクセスできる環境が整備され、リモート監査や在宅勤務が可能となり、また、災害時に事業を継続する体制が構築できています。

Ⅲ.調書の電子化
従前の監査業務においては、膨大な紙文書の管理が常態化しておりましたが、当法人では森林資源の保全、地球温暖化の抑制に貢献し、環境課題解決に資するため、数年前から調書の電子化を進めてまいりました。Webコミュニケーションツールの利用やデータのクラウド化により、これまでの取り組みを加速させることができ、現在では基準等で義務付けられている文書を除き、ほとんどの文書が電子化され、ペーパーレスとなっています。

Ⅳ.データ分析の自動化
「Ⅴ.データ監査ツールActiveDataの活用」で述べる通り、当法人では監査業務に電子データを積極的に利用してきました。しかし、これまではクライアントから入手した財務数値の検証、データクレンジング、分析資料の作成を各監査チームが手作業で行っており、データの処理に多数の工数をかけていました。こうした業務の効率化を図るため、クライアントから受領した電子データの加工の自動化に長年取り組んできました。
その結果、2021年3月に科目調書の自動化ツールのプロトタイプが完成し、4月から一部の監査業務で運用が開始されました。このツールを用いることで、クライアントから入手した財務数値データの取込、加工、抽出、集計、及び分析資料作成までの一連の業務の自動化が実現します。
データ分析の自動化により、早期に分析資料の検討、ヒアリング、異常データの検証など、本質的な監査業務に早期に移行でき、監査実務の核心部分により深く踏み込み、深度ある監査手続が実施できるようになります。
すべての監査業務へ自動化ツールの運用を拡大していくこと、自動化ツールをより効率的で効果的なツールにすべく改善していくこと、他の監査業務に関する自動化ツールの開発を行うことが今後の課題です。

Ⅴ.データ監査ツールActiveDataの活用
当法人設立時よりCAAT導入の必要性を感じ、データ監査ツールActiveDataの日本語版の制作に携わり、2011年より当法人の監査実務に取り入れ、コアなデータ分析スキルとして位置付けてきました。
2021年より本格的にデータ分析の自動化のためのツール分析手法を取り入れましたが、監査特有の分析についてはActiveDataが欠かせません。
当法人においては、データ分析の自動化のためのツールとActiveDataを2本柱として、多角的に膨大なデータを分析し、財務不正の検出・対応を図る等の深度ある監査を心掛けております。
*ActiveData: http://fraud.co.jp/

Ⅵ.RPAの活用の開始
当法人では、RPAツールである「Microsoft Power Automate Desktop」を採用し、ロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation:RPA)の導入により、定型業務の効率化・自動化を計画しております。まだ研究段階ですが、RPAが適用可能な業務プロセスの検討、フローの構築・テストを実施しております。

Ⅶ.DX人材の育成 DXを推進していくため核となるのは人材です。研修カリキュラムを大幅に改革し、IT、統計、データ分析等に関する講座を増やし、監査スタッフがデジタル技術を活用し、データ分析能力を十分に発揮できるように、DX人材の育成に積極的に取り組んでいます。


※1:DXとは、2004年にスウェーデンのUmea UniversityのErik Stolterman教授により提唱された概念である。
“The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.“
その後、我が国の経済産業省において、DXが以下のように定義された。
『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。』 (「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」 平成30年12月 経済産業省より)